近づく2020年米国国勢調査の開始

 10年毎に米国で行われてきた国勢調査。その調査が明年2020年4月1日から開始される。これは、ただ単に人口数を調べるだけでなく、そのデータに基づいて、連邦政府の交付金割り当てや連邦下院議会における州別議席配分の決定など、様々な政策決定に大きな影響を与える調査となる。
 調査では、人種や民族グループの統計も明らかとなり、米国市民は当然、非米国市民のデータも明確となる。したがって、日系社会においても、これからの生活水準などの向上を目的に、この調査結果が活用される。

icount2020のサイトから

 

 
 
米国国勢調査

調査の対象者:米国に住む全ての住民
実施日:2020年4月1日から(国勢調査票は各世帯に4月1日までに郵送または個別配達される)
実施方法:各所帯がオンライン、郵送、または電話で回答

 

 

どんな質問が

 

それでは、国勢調査ではどのような質問が聞かれるのだろうか。
国勢調査局のサイトによると、次のようなことが問われる。
1)2020年4月1日現在で、何人の人があなたの家に住んでいますか?
2)あなたの家は、持ち家ですか、それとも借家ですか?
3)あなたの家に住む人の性別は?
4)あなたの家に住む人の年齢は?
5)あなたの家に住む人の人種は?
6)あなたの家に住む人はヒスパニック系?
7)あなたの家に住む人の関係?

人種の質問では、日本人の場合は、”Japanese”を選べば良い。
一世帯で複数の人が住んでいる場合は、それぞれ個人の名前、世帯主との関係、性別、人種などを記入するようになっている。

   
質問や要求されない項目

1)社会保障番号
2)献金
3)支持政党
4)銀行口座番号

 
 
国勢調査の結果から決まるアリゾナ州への交付金

 国勢調査の結果、州の人口が明らかになる。その人口数に応じて、連邦政府は、交付金を各州に割り当てている。
現在、アリゾナ州に対しては、住民一人当たり2,959ドルの交付金を、連邦政府は支給している。これは、州全体で、200億ドルを超える金額となる。人口増加が著しいアリゾナ州では、当然、受取金額も増加する。そして、州政府は、教育、医療、交通、公園など公共サービスの向上の目的に、こうした交付金を割り当てるのである。

   
国勢調査の結果で下院議席を増やしたアリゾナ州

 2010年国勢調査の結果、アリゾナ州の人口急増が明白となった。そこで、それまで州で連邦下院議会の割り当てが8議席だったのが、1議席増え、9議席となった。そして、2012の中間選挙で9人の代表がアリゾナ州から選出された。

 

 

国勢調査局が伝える現在の人口

 米国の現在の人口は、3億2,900万以上。国内では、8秒に1人が生まれ、11秒に1人が亡くなっている。また、国外からの移民は、34秒に一人増加している。

都市別の人口(2018年)
1 ニューヨーク市 8,398,748
2 ロサンゼルス市 3,990,456
3 シカゴ市 2,705,994
4 ヒューストン市 2,325,502
5 フェニックス市 1,660,272
6 フィラデルフィア市 1,584,138
7 サンアントニオ市 1,532,223
8 サンディエゴ市 1,425,976
9 ダラス市 1,345,047
10 サンノゼ市 1,030,119

   
2020年国勢調査をめぐる混乱劇

 この国勢調査に市民権の有無を問う項目を入れよと言い出したのは、トランプ大統領だった。これまで移民と非米国市民に対して厳しい政策を持ち込んでいる現政権だ。これに対して、強い反対意見を表明してきたのは、民主党や人権保護団体、そしてヒスパニック系団体だった。とりわけヒスパニック系の人々の間には、不法移民に対して強制国外追放を推し進めてきたトランプ政権に、強い不満と恐怖感が広がってきた。
 そして、国勢調査で市民権の有無を問うべきだと主張したトランプ大統領に対して、一斉に反撃の声が全米各地で上がった。
国勢調査は、もともと、アメリカ在住のすべての人を対象とし、全米の人口を統計で知ることによって、より良い地域貢献をすることが目的だった。従って、米国市民は当然として、調査対象が非米国市民であろうと、非合法滞在者であろうと、米国に滞在する限り全員を数えようとしてきた。これは、移民の国=アメリカが一つの国家として生存するためには、どうしても必要な方法の一つであった。しかし、連邦政府が強硬な移民政策を進めるたびに、非米国市民の間で、国勢調査への回答を避ける人たちが増えてきたことも事実である。
その上で、市民権の有無を国勢調査で尋ねるのは、非米国市民の国勢調査参加にブレーキをかけるだけでなく、調査そのものの目的から逸脱するという懸念が国内に広がった。
 ここで物議を醸した国勢調査のあり方に連邦最高裁判所が結論を下すことになった。連邦最高裁判所は、本年6月27日に、現政権の主張は「不自然」であり、国勢調査での市民権に関する質問追加を認めない、という判断を下した。
こんな混乱劇を背景に、一部の識者からは、「すでに国勢調査への信頼が崩れてしまった」と表現し、悲壮感がニュースでも伝えられ、国勢調査の政治利用を恐れる声が報道されている。

 

 
国勢調査の回答が少なくなると、、、
 非米国市民の間で、とりわけ移民の米国在住者の間で、国勢調査への恐怖感が広がり、調査に回答する者の数が実際より低下すると、どのような結果になるのだろうか。
 一般に移民の在住者は民主党支持者が多い。そこで、現在、民主党支持者が多数のところで、調査結果の人口数が実際の人口数より少なめに出ると、下院の議席数が減少する可能性が高くなる。例えば、共和党が強いテキサス州では、民主党優位の地区が議席数を減らすということもありうる。
実際、共和党の政策戦略家であったトーマス・ホフェラー(Thomas Hofeller)氏のコンピューターから興味深い資料が見つかっている。ホフェラー氏は、昨年8月に死亡したが、彼の娘が父親のコンピューターのハードディスクにあったファイルを外部に公開した。そして、そのファイルには、トランプ政権が国勢調査に市民権の質問を追加すると、議席配分が共和党や白人に有利になるという試算が出てきた。ホフェラー氏は、コンピューター化したマッピング・システムを作り上げ、人種別人口を区域ごとに計算し、選挙区を変更することで、共和党と白人に有利な議席増加を可能にする戦略を作り上げた。
 彼の試算がどのように共和党と現政権に使われてきたか不明だが、トランプ大統領の政策に大きなインパクを与えている可能性が強い。
つまり、今回の国勢調査で「あなたは米国市民ですか」と尋ねる項目を入れる、または入れようと意図することだけで、移民の回答数が減り、現在、民主党支持の場所で下院議会の議席を減らすこととなる可能性が高まる。
このように、移民の国アメリカで、移民締め出しを強行する意図が、国勢調査の実施にも影響されているのが現実のようだ。
今後の成り行きに注目したいものだ。