ビタミンDへの期待
世界は一つ。新型コロナウイルス
新型コロナウイルス
感染経路から感染予防を考える
肌保湿の大切さ
オピオイドクライシスとは
 
 
 
 

オピオイドクライシスとは

 2020年。新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。アメリカで生活する上で、健康であるということがいかに安心につながるか、日々感じております。みなさまの日々の健康に少しでもお役にたてるよう、今年もこの場をお借りして、有用な情報をお届けできたら、と思っています。
 さて、今回のテーマは、ここ数年、テレビやラジオでも耳にすることが増えた“オピオイドクライシス”についてお話させていただきます。
オピオイドクライシスとは?
 2017年10月26日、オピオイド鎮痛薬の乱用による薬物中毒で、米国内で年間4万人を超える死者が出ていることを受けて、トランプ大統領は「公衆衛生上の非常事態」を宣言し、対策を一段と強化する方針を発表しました。しかし、その後もオピオイド鎮痛薬の中毒患者数や、過剰摂取による死亡者数は増え続け、アメリカ全国保険統計センター(NCHS)の2018年の調べによると、オピオイドに関連した死亡者数は、年間4万7千人を超えました。
 アメリカでの薬物問題は長年の課題ですが、近年、合法=医師から処方されたオピオイド鎮痛薬による薬物依存がまん延しており、“オピオイドクライシス”という、社会問題の一つになっています。その背景には、本来、オピオイド製剤が必要でない=痛みがそんなに強くない患者に安易に処方されている実態があります。近年、薬物乱用による死亡者数の原因は、厳しく取り締まられているヘロインやコカインなどを抜き、オピオイド鎮痛薬が主な原因となっています。多くのスポーツ選手やミュージシャンが、処方されたオピオイド鎮痛薬によって命を落とすニュースを耳にすることも、こうした背景が一員となっています。
製薬会社が賄賂
 トランプ大統領がオピオイドの非常事態宣言を出した同じ日に、米捜査当局は、医師に賄賂を渡し、オピオイド鎮痛薬を必要としない患者にまで処方させたとして、米製薬会社大手インシス・セラピューティクスのCEOらを逮捕しました。この事件は、近年の一連の“オピオイドクライシス”という社会問題を大きく助長したとして、その後裁判で関係者に有罪判決が下されました。オピオイドは当初、常習性の無い鎮痛薬として病院で普通に処方されたため、米国内での使用者が急増しました。最近では、製薬会社が独自の利益のために、オピオイドの危険性の周知を怠り、中毒のまん延を招いたとして責任を問う動きも広がっています。
オピオイド鎮痛薬とは?
 オピオイド鎮痛薬(以降、オピオイド)は、神経系の司令塔の部分である脳や脊髄に作用して痛みを抑える薬の総称です。非オピオイド鎮痛薬(ロキソニン、イブプロフェン、アスピリン、アセトアミノフェンなど)が効かない場合に、オピオイドが使われます。医療用麻薬として認められているオピオイドは、医師の処方が必要です。それぞれの薬は性質や使用法が異なり、患者さんの痛みの度合いも様々なため、痛みの程度や質をみながら医師と相談して患者さんに合った薬を選ぶことが大切です。手術中、手術後の痛みのコントロール、がん性疼痛、慢性的な複雑な痛みなどに使用されます。
医療用麻薬と不正麻薬の違い
 「麻薬」といえば、言葉の響きから、覚せい剤や大麻などのような怖い薬物と誤解されることがありますが、「医療用麻薬」と「不正麻薬・覚せい剤など」は違います。
「医療用麻薬」
なんらかの痛みに対して、医療用の使用が許可されている、医師の処方箋を必要とする麻薬。乱用などを避けるため、その取扱いには十分な知識と注意が必要とされる。
例)モルヒネ(morphine)、オキシコドン(oxycodone, OxyContin®)、フェンタニル(fentanyl)、ヒドロコドン(hydrocodone, Vicodin®)、コデイン(codeine)、トラマドール(tramadol)、タペンタドール(tapentadol)、メサドン(methadone)
「不正麻薬・覚せい剤など」
法律によって、使用、所持、譲渡、譲受、製造、輸出入が規制されている。一時的な快楽目的などでの使用。
例)ヘロイン、コカイン、MDMA、LSD覚せい剤など。
アメリカでは医療用麻薬が手に入りやすい現状
 では、なぜこんなにも米国で合法で処方されたオピオイドがまん延しているのでしょうか?日本で処方されるオピオイドといえば、手術中、術後の疼痛管理であったり、がん性疼痛であったり、医療従事者の非常に厳しい管理の下に使用する場面が多く、普段家に無造作にあるような薬ではありません。一方、米国では、抜歯の後にコデインであったり、帝王切開後に数週間分のオキシコドンであったり、安易にオピオイドが処方されやすい傾向が見受けられます。当然、念のための処方である場合も多く、手元に飲まずに残ってしまうオピオイドが増えていきます。これらの問題は、医師の診察を受けるのが難しいという米国の医療保険制度の問題でもあり、未使用のオピオイドが社会に氾濫した結果、米国では人種や貧富の違いを問わず、あらゆる階層でオピオイドが簡単に入手できる環境になり得た、とも言えます。
痛みがある時はどうする?
 では、痛みがある時はどうしましょう?まずは、痛みには原因があるということを頭に置いておいてください。一週間以上薬をのんでも効果がない場合は、医師の診察を受けましょう。第一選択薬は、アセトアミノフェンもしくは、イブプロフェン、アスピリン、ロキソニンなどに代表されるNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)です。NSAIDsは、胃に負担をかける場合があるので空腹時を避け、長期服用する際は、胃薬の併用をおすすめします。お子さんに安心して使える鎮痛剤は、アセトアミノフェンです。
NSAIDsとオピオイドの違いはなに?
 NSAIDsでは効果がない痛みに処方される可能性があるのがオピオイドです。NSAIDsは、主として末梢に作用して身体的な痛みをやわらげる薬剤です。それに対して、オピオイドは中枢神経に作用する薬剤です。オピオイドは中枢性(特に脳)に作用するため、身体的苦痛の緩和だけでなく、身体以外の辛さ(精神的、社会的な苦痛等)をも緩和してしまう薬という認識が必要となります。
オピオイドを処方されたけど、飲んでも大丈夫?
 そんなに痛みが強くない場合にオピオイドを使用した結果、言い換えれば、本来ならイブプロフェンなどNSAIDsでも効果があったかもしれない痛みにオピオイドを使用した結果、副作用や精神依存などの中毒性がでる可能性は否定できません。ただし、術後など数日間のオピオイド使用で精神依存になることはまずありません。要は、痛みがないのにオピオイドの使用を続けることが問題になります。がん性疼痛など、強い痛みがある時に適切な量を正しく使用する分には、依存などは起こりにくいとWHOの疼痛ガイドラインでも示されています。
オピオイドの副作用と対策
 オピオイドの代表的な副作用は、1)便秘 2)眠気 3)吐き気 です。便秘に対しては、下剤の服用や食事を気をつけるなどでコントロールしていきます。眠気や吐き気はオピオイドを使用開始後、1~2週間でなくなることが多いですが、中にはずっと眠り続けるor吐き気がひどい場合は、オピオイドの量が多いなどの問題が考えられる場合もあります。その他の副作用として、せん妄・幻覚、呼吸抑制、口内乾燥、掻痒感、排尿障害などがあります。
オピオイドは飲み始めたらやめれない?
 いいえ。がん性疼痛などの目的でオピオイドを長期している場合、治療の効果が出て、痛みが弱くなれば、徐々に薬の量をへらしていくことも可能です。ただ、急にやめるのではなく、医師に指示のもとに徐々に減らす必要があります。短期間の低用量での使用は、もちろんすぐにやめることが可能です。
どういう時に中毒になる?
 麻薬中毒または精神依存とは、自分で制御できずに薬を使用してしまったり、痛みがないにもかかわらず薬を使わずにいられないようになることが特徴です。痛みがある患者さんにオピオイドを適切な量を適切に使用した場合、中毒や依存症が発現することはほとんどないとされています。ただし、痛みがない人がオピオイドを使用したり、適正な量以上に過剰投与された場合に中毒になる危険性があります。通常、人の脳内では、ドパミン(気分を高揚させる神経伝達物質)の放出は抑えられている状態ですが、
①痛みがあってオピオイドを使用した場合
オピオイドを使用しても、ドパミンの放出は抑えられたままです。そのため、快感・中毒状態にはなりません。
②痛みがないのにオピオイドを使用した場合
オピオイドを使用すると、ドパミンが大量に放出され、快感状態になります。そして、これが長く続くと中毒状態になってしまいます。
正しい知識と適正な使用が大切
 二人に一人はがんといわれる今、オピオイドの性質を正しく私達一人一人が理解することは、オピオイドを必要とする多くの方々への偏見をなくし、多くの患者さんが辛い痛みから解放される一助になると思います。オピオイドは決して怖い薬ではなく、現代医療にとって必須の薬剤です。ただ、中枢性(特に脳)に作用するため、適正な知識と量を守って使用することが、他の薬に比べてとても重要であることを忘れないでください。医療従事者だけでなく、使用する患者さんご本人、そしてご家族や周りの方も、オピオイド使用者の痛みに寄り添い、適正に使用されることが必要です。オピオイド製剤を必要としている人が、辛い痛みから解放され、誤解なく安心して使える世の中であってほしい。切に願います。
 オピオイドに限らず、薬はとてもすばらしい自然、科学、先人たちのおくりものです。薬は人をラクにするためのものであって、薬に苦しめられてはいけません。正しい知識と判断で、安全に適正に使うことが大切です。
参照:https://www.hhs.gov/opioids/   https://www.cdc.gov/

 

尾中景子

福岡県出身。2002年、熊本大学薬学部卒業。九州大学病院に約7年間勤務。主に医療チームの一員として入院患者への服薬指導、学会への論文発表、学生の指導などを主な仕事とする。2009年、結婚を機にアリゾナに移住。2016年、自分の好きなことを始めよう、と元々興味のあったアロマセラピーの世界へ。ハワイ・カイルアの米国NAHA協会認定校 Ohana Healing Instituteにて、オンラインや現地での勉強を重ね、クリニカルアロマセラピスト・ハワイアンヒーリングハーブの資格を取得。現在、日本語で米認定アロマセラピーの資格が取れるスクールKokopelli Healing Arizona主宰。他に、にほんごであそぼ&つくろin Arizona~日本をつなぐ~主宰。
メール